4月9日(木)第33回佛立研究所・研究員会議が開催され、小発表を教学研究部門から、福岡・本法寺、向井淳報師、また弘通研究部門より、伏見・妙福寺、松本現薫師のあわせて二師から発表がありました。それぞれのテーマは向井師より「仏教の共生的世界観と憲法の平和条約」というタイトルで、松本師からは「現代弘通の成功例と教務像」というタイトルで小発表がありました。
去る、3月26日に佛立研究所・佛立教育専門学校との共催で「第18回研究発表大会」が開催された。
その中で特別講演として、山田洋次監督作品映画『学校』のモデルになった、東京都墨田区立文花中学校・夜間学級嘱託として教鞭をとられている、見城慶和先生をお招きし講演いただいた。タイトルは「学ぶ楽しさ素晴らしさ」-夜間中学での出会いや学びから-
である。
「夜間中学(夜間学級)」とは、戦後間もないころ、家の手伝いをしたり、働きに出されたりして昼間の学校に通 えなかった子どもたちのために開設された学校。当時は学齢の生徒がほとんどであたが、 現在は様々な事情で「教育」を受けられなかった人々(義務教育を終えられなかった人、十分に勉強ができなかった人、日本語を学びたい人たちなど)が、年齢・国籍に関係なく学んでおり「夜間中学」は注目を集めている。その第一人者が見城先生である。
柔らかい口調と心地よい声のトーンで公演は始まった。見城先生が教師を目指そうと思ったきっかけが、小学校4年生の時の担任の先生が語った言葉によるそうである。日本が戦争に負けて、諸外国が軍備をしっかり固めているのに対して、日本は戦争を放棄して、軍隊がなくなり誰もが不安を感じている頃。先生は、「皆さん、軍隊がなくなっても少しも不安を感じる必要はありません。戦争を放棄して世界中の人と仲良くするのですから、少しも心配する必要はありません」というような趣旨のことを、やさしく、また、毅然とお話をされ、子供心に感動を覚えられたとのこと。そして、将来はあのような素敵な先生、教師になりたいと思われたとお話し下された。その後、見城先生は教師を目指すべく、東京学芸大に進学して、教師への道を歩んでいくことになる。
ところが在学中に60年安保闘争に共鳴して、運動を沢山の同志と共にすることになる。しかし、安保闘争に敗れ、挫折して教師への道を断念しかかっていた頃、一冊の本に出会う。それは夜間学級についての本。これを見て「こういう憲法違反の学校があるからいけない、昼間、子どもが学校に行くことを妨げているのだ」と思い、実際に夜間学級を見学に行かれた。ところが、教育を受けたくても受けられない子どもが、喜んで生き生きとこの学校に通い、勉強している姿に接する。逆に、ここで先生として働き、ひとを育てたいと思われるようになり、1961年、志願して荒川九中に奉職。それ以来、42年勤められるのである。退職後も、「えんぴつの会」を立ち上げ、教育を受けられなかった人たちにいろいろな事を今現在も教えられているとのことである。
先生のお話の中からは、平和と平等、差別なき社会を願い、困っている人があればいつでも助けたいという、いわば「菩薩」の心があることがくみ取れた。また、宮沢賢治の詩が口をついて出てきて、賢治の考えと生き方に共鳴を覚えておられるようである。
ところで、公演の資料としていただいたプリントに記載された作文の一節に、戦争や貧乏で学校に行けなかった方の『私は思い出した』というタイトルの作文がある。
『いま、うちの息子は33歳ですが、その子が小学校4年生ぐらいの時でした。学校から帰って宿題の算数をやっていました。私はそれを見て「あんたなにをやってるの。1234と書いてあるのはわかるけど、横の方に小さくばつや、じゅうと書いてあるのは、おかあちゃんにはちっともわからないわ」と私はいいました。すると子供は、「いまこれがおわったら、おしえてあげるからちょっとまっててね」といったことがありました。
今こうして九中二部でおしえていただいて、あの時のあれは算数で、たす、ひく、かけるのきごうだったことがわかりました。なんて情けない、だらしない親だったのでしょう。今はこの学校に来ていろいろ教わって、少しずつわかるようになってきました。
ここに来なかったら、なんにも知らないまま年をとっておわったかもしれません。九中二部の先生方は、私にとっては目のお医者さんでもあります。だんだん目が見えるようにして下さいます。先生これからもお願いします。』
このような作文を読むにつけ戦争のつめあとは、今も残っているということを感じた。 更に、見城先生は、現代の教育に対して警鐘を鳴らされた。先生は「夜間教育は、失われしまった教育の機会を取り戻すために、また、外国の人の為に日本語の教育はじめ、いろいろなことをゆっくり、時間をかけて教えていきます。新しいことを知る喜びで、みな笑顔で学校に入って来ます。また、教える方も喜んで教える。教えたい人が、教わりたい人に教える。教える方も、教わる方もワクワクしながら授業が行われ、学びが創られていいますと・・・教育の本質が夜間学校にはちゃんと、息づいているのです。」と語られた。
今回の公演では、見城先生の教育の現場である夜間学級での生徒たちとのふれあいと、そこで感じられた人間の可能性について教えていただいたように思う。人は一人一人違い、だから生きる速度も異なる。学ぶ速度も成長する速度も異なる。そうした生徒一人一人に寄り添いながら、教師と生徒の間に「感動」が生まれるのであると感じた。
お互い教務もご信者も、こうした感動し合えるそして、喜びに満ちた信行ご奉公の現場作を目指さなければならないと、改めて思う次第である。
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